医療生成AIは“実装フェーズ”へ — エージェントAIと運用設計が鍵に
2025年10月、米国ラスベガスで世界最大級のヘルスケアイノベーションカンファレンス「HLTH 2025」が開催されました。
今年の特徴は、医療生成AIがついに“実運用・スケール”を前提とする段階に入ったことです。技術の話題よりも、どのように医療現場に根付かせるか、どうやって価値(ROI)を証明し続けるかが主軸となっていました。
本稿では、医療DX・医療AI導入を支援する企業の視点から、特に注目すべきポイントをまとめます。
1. エージェント型AIが主役に
今年もっとも存在感を放っていたのが、”能動的にタスクをこなす“エージェント型AI(Agentic AI)”です。従来の生成AIが「質問に答える」役割だったのに対し、エージェントAIは以下のように“自ら動く”点が特徴です。
- 診療前の情報整理・サマリー自動生成
- 患者・スタッフへの自動ナビゲーション
- 事務処理・多ステップ業務の自動化
- 臨床意思決定後のアクション実行(検査オーダー案、フォローアップ提案など)
多くのヘルスシステムがパイロットを開始しており、「AIがワークフローを動かす」未来が現実味を帯びています。
2. 生成AIは“現場の業務効率化ツール”として定着
医療現場での課題として長く指摘されてきたのが、事務作業負荷・文書作成・情報整理に費やす時間です。今年のHLTHでは、この領域における生成AIの浸透が一気に進んでいることが確認できました。
主な活用例は以下の通りです。
- 臨床文書作成(Ambient Scribing)
- 問診内容や前回受診の自動サマリー生成
- コーディングや収益管理(RCM)の自動化
- EHR統合AIアシスタントによる業務支援
特に米国では「生成AIにより診療1件あたり10〜20分の削減」が複数の病院から報告されており、スタートアップだけでなく大手EHRベンダーも本格実装に踏み切っています。
3. “信頼性・透明性・ガバナンス”が新たな競争軸に
生成AIの実運用に向け、今年のHLTHでは“安全に使い続ける仕組み”が大きなテーマでした。
取り上げられたキーワードは以下です:
- 医療機関での実証データ(Real-World Evidence)
- バイアス管理・説明可能性(Explainability)
- AIの挙動を継続的に監視するMLOps体制
- データ連携と相互運用性(FHIRなど)
- クリニシャン・イン・ザ・ループ
言い換えれば、「動くAI」ではなく“安心して動かせるAI”が選ばれる時代になったということです。
4. 医療・創薬・診断へと広がる生成AIの応用
生成AIは診療文書だけでなく、創薬や画像診断の領域にも広がっています。
- 創薬ターゲット探索の自動化
- 仮説生成〜実験設計の効率化
- 画像診断AI × 生成AIによるレポート生成
- パーソナライズド医療への適用
特に診断領域では「レポート文章生成+臨床的示唆の提示」という“判断支援の高度化”が進んでおり、日本の医療機関でも今後注目ポイントになると感じられました。
5. 日本の医療DXへの示唆:導入後の“運用設計”が決定的に重要
今回のHLTHを通じて、日本の医療機関・自治体・企業における医療DX推進で特に重要と感じた点は次の3つです。
① パイロットから“運用段階”への移行設計
AI導入はPoC(試行)で終わる場合も少なくないですが、海外ではすでに「どのように日常業務へ根付かせるか」が主戦場になっています。
② EHR・院内システムとの深い連携
AI単体ではなく、“カルテ・予約・検査・収益管理とも連動するAI”が価値を生む時代に入りました。
③ 効果測定(ROI)とガバナンスのセット化
・業務削減量 / 診療時間短縮・コスト削減 / 増収効果・エラー削減 / 品質向上
これらを継続的に可視化する枠組みが不可欠です。
まとめ:大事なのは“どんなAIか”より「どう現場に根付かせるか」
HLTH 2025では、生成AIが単なる新技術ではなく、医療の生産性を底上げする“インフラ候補”として語られ始めていることが印象的でした。
同時に、数多くのセッションを通じて、改めて浮かび上がってきたのは、「どれだけ高度なAIか」ではなく「どう医療現場に根付かせるか」こそが本質的なテーマになっているという点です。
- 現場フローのどこに組み込むのか
- 既存システムとどうつなぐのか
- 誰が最終責任を持ち、どうモニタリングするのか
- その結果、何がどれだけ良くなったと言えるのか(ROI・質指標)
医師主導のスタートアップとして、「技術そのもの」よりも「臨床・経営の文脈にどう落とし込むか」を考え抜くことの重要性を、今回あらためて実感しています。
当社は今後も、医療者としての実感と経営の視点を両立させながら、生成AIを現場に根付くかたち”で実装し続けるパートナーでありたいと考えています。


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